オルガニスト楽屋話

第1話 持ち運びの出来ない楽器---1997.3.18.


パイプオルガンはコンサートホールや教会などに設置されています。オルガニストは自分の楽器を持ち歩いて演奏する訳にはいきません。同じ楽器というのは一台もなく、いつも違った楽器で演奏しなければなりません。楽器の大きさ、様式の違い、それぞれ個性があります。鍵盤の数、ストップ、演奏補助装置、そして鍵の長さ、深さ、重さなど楽器により様々です。という訳で、演奏会前のリハーサル時間は大変貴重なのです。特にコンサートホールでは、与えられた限られた短い時間の中で、レギストレーション(音色を決める)をし、楽器に慣れなければなりません。たとえ何度も弾いて慣れている楽器であっても、私はさらに他にも音色の可能性がとか、より楽器を生かせる演奏が−−と追求してしまいたいあまり、<開場の時間です!>という声が聞こえてくるまで、オルガンに向っていることが、しばしばあります。あと30分で、着替えをして−−と、あわただしく開演時間を迎えます。


いつも慣れた自分の楽器で演奏出来る、弦楽器や管楽器奏者の方が羨ましいのですが、あるオルガンファンの方から、こんなお話を伺いました。<色んなオルガンを聴く楽しみがある>というのです。同じバッハのトッカータとフーガでも、また違った楽器で聴くことが楽しみと、東京での幾つものホール、さらに地方での私のコンサートへも足を伸ばして下さるのです。確かにオルガンならではの、嬉しいお話です。 私にとっても苦労は多いものの、美しい楽器との出会いはいつも喜びです。今年も東京はじめ各地に、新しいオルガンが誕生しますし、日本のオルガンの数も急増している今、こうしたオルガンの楽しみ方が出来るような時代が訪れたのかもしれません。

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