オルガニスト楽屋話

第8話 白石キューブ、オープニング記念コンサートを終えて---1997.6.29.


昨晩、宮城県白石市から戻りました。このまちに新しいホールが完成し、それを記念して三枝成彰氏プロデュースによる 柿落しコンサート(3夜連続)が開かれました。その第1夜で、大友直人さん指揮の東京交響楽団と私も演奏してまいりました。 総ガラス張りのモダンな建築のこのホールは、何と3.7秒という日本一長い残響、そしてそこには118ストップという日本最大規模のオルガン (詳しくは、オルガン製作者大林徳吾郎さんのページを、ご覧下さい) が設置されています。

オルガンはホールの正面上部に設置されていますが、ペダルの一部のパイプを除いては、シャッター付きの大きな箱の中に入っており、演奏台はステージ上にあります。 この大きな箱の中には、ものすごく沢山のパイプが入っている訳ですが、シャッターの開閉により音量を自由に調整できるので、 大きなダイナミックの変化、そしてまた微妙な音楽表現が可能となります。
しかし始めてこの演奏台に座ってみると、ストップの数に困惑することでしょう。 手鍵盤は5段−−しかもフローティング鍵盤というものもあり、実質的には6段、そしてペダル鍵盤です。 4つ(!)のスウェルペダルの位置を覚えるだけでも大変。これほど大きな楽器ともなると、慣れるまでに時間がかかります。

この118ストップの中には、これまでの日本のオルガンには無かった様な音色が沢山あります。静かな弦の音から、力強い迫力を持ったシンフォニックな トゥッティのひびきまで、とても幅広いダイナミックに対応出来る楽器で、オーケストラとの演奏には、このような楽器がまさに必要なのです (これまでの日本のホールのオルガンの最弱音はオケの最弱音より強く、また最強音はオケの中では聞こえない)。

演奏会の前半は、オルガンとオーケストラのプログラムで、まずバックス作曲の<勝利の歌>で華やかに始まりました。 ゲネプロもこの曲から始まったのですが、私はもちろん、指揮者の大友さん、そしてオケの団員全てが、このホールの響きに驚いた様子。 慣れない残響の中で演奏しにくいのではないかとの心配は全く無く、むしろその響きを効果的に、そして楽しんで演奏出来たという印象です。

オルガンはこの曲においては、低音の効果とオケの音響補足的効果が要求されています。ペダルに3つの(!)32フィート管を持ち、 ホールを揺るがすような低音の効果には、流石にオケの人も<体が震えたよ>とビックリした様子でした。そしてオケのトゥッティにも負けない迫力の音、 しかもオケとオルガンが音質的にも非常に良く溶け合い、それでいて fffの音は非常に美しい −−こうしたシンフォニックな響きは、 これまでのネオバロックオルガンでは聞くことが出来ませんでした。圧倒されるようなオルガンとオーケストラの響きがホールを満たしました。 大友さんも演奏中オルガンの存在感を意識していた様子が窺え(おそらく、他のホールで演奏したら、 オルガンは隠れた存在でしかなかったと思うのですが)、嬉しかったものです。

次はヘンデルの<メサイア>より抜粋で7曲、ソプラノの塩田美奈子さん、バスの佐々木隆行さん、地元の130名のコーラスも加わっての演奏です。 私はこの曲では、通奏低音でしたが、ソプラノのアリアには美しいフルートの8フィートで、そしてコーラスとはコーラスの支えとなるようなバランスで、 演奏出来たと思っています。またこのような宗教曲を、こうした残響の長い会場で、演奏また聴くことが出来るというのは、日本では珍しいことと思いました。

そして前半最後はバッハの<トッカータとフーガ ニ短調>−−オルガンとオーケストラのために山本直純さんが編曲したものです。 フーガはオルガンのソロになるのですが、トッカータ部はオケとオルガンが対話のように交互に現れたり、またトゥッティになったりします。 誰もが知っているこの曲を、オルガンとオーケストラでお楽しみいただけたのではないかと思っています。

このプログラムで私の出演は終わりました。まだまだこのオルガンには沢山の魅力があり、今回お聞かせ出来たのは、実はこのオルガンのほんの一部にすぎません。 こうした楽器は日本では初めてで、その特徴を上手く引き出し効果的な演奏をするためにはテクニックとセンスが重要となり、演奏者を選ぶ楽器と言えるでしょう。 しかしながら、沢山の8、16フィートのストップやスウェル効果を使って演奏したい、ロマン派のオルガン曲やオーケストラとの作品がいろいろあります。 また個々のストップも美しく特色があり、来年1月にまた白石で演奏出来ますことが、とても楽しみになりました。

各地に新しいホールが誕生していますが、これまで無かったようなオルガンが設置されたホールの誕生!! 皆様に一刻も早くお伝えしたいと、今日書いております。

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