オルガニスト楽屋話

第10話 ステージ衣装---1997.6.12.


ファッションも自己表現のひとつ、私にも色々なこだわりがあります。 年に2回、私のお気に入りのデザイナーのファッションショーは、 どんな用事があっても時間をさいて出かけて行ってしまうほど。スタイル抜群の モデルさん達が、頭のてっぺんから足の先まで鮮麗されたファッションに 身を包み、音楽と光の演出、とりわけイヴニングドレスの美しさにはいつも 息をのみます。
あんな衣装を着てみたいと思うのですが、私には色々な制約があるのです。 ご存知の方も多いかもしれませんが、私は足を使ってペダル鍵盤を演奏しますし、 そのほか足で色々な楽器操作もします。何てお行儀の悪い楽器なのと、 言われることすらあります。スウェルペダルを使って音量の調整、 またコンビネーションのピストンを押し音色の変化など、足も休むことなく 動いているのです。という訳で、いつもパンツルック。足元の 見通しの悪いロングスカートでは、私はどうしても演奏出来ませんし、 短いスカートなら可能ですが、あまり格好良くないし−−。 豪華、華麗な衣装でステージに登場する歌やピアノ、ヴァイオリン などのソリスト達、楽屋ですれ違う度に羨ましく思うのです。 靴はいつも同じデザインの<オルガンシューズ>−−演奏会では良く足に 馴染んだ靴をはくので、いつも”ボロ靴”です。ロングドレスに ハイヒール−−これは私には無縁の世界です。

  オルガニストはほとんどの場合、背中向きで演奏、しかも客席からは かなり遠くの位置で弾くことが多く、豆粒のよう、ですから遠くからの そしてスポットライトの中での見栄えを考えて、光沢のある、あるいは 光る素材のものが、自然と多くなってきています。とは言え、光りすぎても 聴衆にとってはうっとおしいでしょうし、私も眩しくては演奏を妨げます。 そのほかもちろん演奏会の内容、会場の大きさなどにも気を使います。 色やデザインも楽器の性格上、優しいものや、可愛らしいものは 不向き。それから当日弾く楽器のケースの色のことも考えます。 また大きな楽器では5段鍵盤までありますから、手が自由に動くことは、 絶対条件です。

我が家のクローゼットに並んでいる衣装は、数は多くはないのですが、 それぞれ思い入れがあり選んだもの。実際、演奏会の間際になって 探すということは時間もないので、とにかく本当に気に入ったものがあれば (これがなかなか無いのですが)即座に買います。時には、まとめて 数着買うことも。買ったものに、スパンコールを付けるなど色々 手を加えたり、時にはもったいないのですがロングドレスを 切ってしまったりすることもあります。

コンサートの後、”衣装が素敵でした!これからも楽しませて下さい”との声 (こういうメールもいただき、ありがとうございます)−−演奏の方は 一体どうだったのかなと思ってしまうこともありますが、とはいえ 嬉しいものです。私もファッショナブルに生きていきたいものです。

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