オルガニスト楽屋話

第11話 おめでとう、札幌 ---1997.9.25.


昨日、札幌コンサートホールKitaraで演奏会を終え、今東京に 戻りました。7月にオープンしたばかりのこのホールで、日本フィルの 北海道定期演奏会、オーケストラとはサンサーンスの<オルガンシンフォニー> (外山雄三さん指揮)、そしてオルガンソロでバッハの<トッカータとフーガ>を 演奏してきました。

5年ほど前のことだったでしょうか、札幌へ訪れた際(ジャン・フルネ指揮、札響の コンサートの翌日でした)札幌に住む友人が中島公園を案内してくれたことが ありました。丁度、紅葉の季節で、何と美しい公園なのかと感激したものでした。 その時、ここにオルガン付きのホールが建てられる計画があるとの話を聞きました。 けれども、こんなに早く、私に演奏の機会が与えられるとは思ってもみなかった ことだけに、昨日そのホールで演奏出来たことは、感慨深いものでした。

リハーサルの時は、新しいホールの響きに、皆戸惑いを感じた様子でしたが、 本番では聴衆も、そして演奏者も、響きを満喫し、<素晴らしい響きのホールの 誕生>と実感しました。1ヶ月以上も前から完売とのこと、満席のホール、 札幌の日本フィルのファン、また熱心な聴衆の大きな拍手の中、演奏会は終わりました。 オルガンも市民運動や署名運動など、札幌の人々の願いがかなって設置 されたものだけに、多くの熱い思いが感じられました。

オルガンはフランス Alfred Kern & Fils の 68ストップ、4段鍵盤の楽器です。 ホールの響きの良さも手伝って、とても良く歌い、また鳴ります。 タッチの敏感さも見事に音に反映され、自分の思い通りの音がパイプから 鳴る、表現力が豊かで、演奏し易く、弾いていて色々な発見があり、演奏する ことに喜びを感じる楽器です。 これまでにも新宿文化センターや秋田アトリオンホールで弾いたことのある Kernの楽器で、取りたてて新しいということはあまり無いのですが、ホールの、 つまり<器>の響きの違い、そしてメカニック的には、カプラーにバーカーレバー を使用するかどうかを選べる装置が付いている点が大きく異なります。 (このカプラーのシステムには、疑問な点がいくつかありますが)

しかし昨日のサンサーンスの演奏をして感じたことは、演奏台がステージから 遠いため、オーケストラを聞いて弾いているとオルガンの音が遅れてしまうこと。 モニターカメラで指揮者の棒に合わせると、オルガンは先に 聞こえてしまうという、難しい条件の中での演奏となりました。また Swellの効果はあまり無く、1楽章の終わりの morendoの効果は、 残念ながら私の思い通りではありませんでした。 オーケストラとの演奏も可能ですが、むしろこの楽器はオルガンソロで、 真価が発揮されるのではないかと思いました。12月にこのホールでまた演奏 させていただく予定がありますが(12月14日のクリスマスオルガンコンサート です)今から、楽しみになりました。

実は、帰り際になって、始めてコンサートのポスターとチラシを目にしました。 というのも地方公演、しかも早くに完売だったので、我々演奏者の目に触れることは 無かったのです。しかしそこにはホールとオルガンの写真、そして外山先生と私の 写真、その上に大きく<おめでとう、札幌>との文字。 演奏後、その実感に溢れ、”このポスターいただけますか?”との私の 言葉に、主催者の方も驚いた様子−−何だかとっても嬉しくて、大切に 持ち帰りました。私にとっても珍しい出来事でした。またこの地にも、 新しいオルガンの嬉しい誕生がありました。

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