オルガニスト楽屋話

第110話  カザルスホールのオルガンの行方 ---2010.4.1.

今年も桜の季節になりました。我が家には立派な絵などはないのですが、 リビングから多摩川を望む景色は四季折々楽しませてくれます。のんびりくつろいでいる 時間はあまりないのですが、たまたま遭遇した夕焼けの美しさに感動することも。 新緑、それから河原一面白銀の世界になる雪の日も綺麗ですが、桜の季節は一年でもハイライトか もしれません。昨日は桜をバックに真っ白な富士山が見えました、日本的な景色だな、と。 我が家の前はお花見客で賑やかになり、輪になってお弁当を広げる人も、また屋台も現れ、 家にいても落ち着かないのですが、 夜はライティングされた夜桜を見ながら、毎晩プチお花見気分の夕食になっています。

筍、ふきのとう、そら豆、、日本の春野菜に加え、最近は日本でもホワイトアスパラが手に入るようになりましたね。 ヨーロッパではこのホワイトアスパラが出回ると春が来たな、という気分になります。丁度イースターの頃です。春の到来とともに、 どうも貴重なものらしく、ちょっとした騒ぎになります。日本のまつたけのようなものなのでしょうか。 実はこのホワイト・アスパラに苦い思い出があります。ドイツにいた時、お世話になりとても優しくしてくださっていたロータリーカウンセラー (ロータリーの奨学金をいただいていたので)が、週末になると時々家族の昼食会に招いてくださっていたのですが、 ある日曜日は「ホワイトアスパラを食べにいらして」と。大きなホワイトアスパラ、そして付け合せにじゃがいも、 サラダでした。次にメイン・ディッシュのお肉が出てくるものと思い(ドイツのサイズですから、当然大きなお肉です)、 控えめにいただいていたところ、その後はデザートに、ホワイト・アスパラがメイン・ディッシュだったのです、、。 「それだけいいの?」と確かに何度も尋ねられてたのですが、アスパラはお肉に替わるような高価でまた貴重な食材であり、 またメイン・ディッシュだったのですね。そんな思い出があるホワイト・アスパラ、スーパーで売っていたので買ってきてました。そして 「ヨーロッパではこれだけよ!」と言いながら、ドイツで教えてもらった バター&レモンのソースで食卓に。

新年度、何と言っても気がかりなのは、昨日3月31日に閉館になったカザルスホールのオルガンの行方です。 先週はイタリア人、ベロッティ氏のコンサートを聴いてきました。磯崎新氏設計の響きの良い音楽ホール、 ヨーロッパでは数百年使うような立派なホールです。そして現代最高のオルガン製作者の一人であるアーレント氏の 「歴史的製作法」で作られた(バッハの時代の中部ドイツのオルガン様式です)大変美しい楽器。このような日本で 誇れるような『文化財産』を壊してしまうのでしょうか?!寂しい話です。全く信じられません。そしてオルガンの行方は??

そんなところへ、ドイツのオルガン製作家の知人から「もしもオルガンも壊してしまうのであれば、 ぜひとも“救済”したい。コンテナ、解体のための人材、東京への飛行機、、手配します」というメールが来たのです。 とはいえ、どこにこのことを伝えたら良いのでしょう、私もわからず困惑しています。 次の良い環境が決まり、オルガン移転の話でも聞けるようになれば良いのですが、 どんなことがあっても壊して処分してしまうようなことがあってはならないと思います。




<追記>昨日4月5日の読売新聞に『閉館は日大が予定しているキャンパス再開発に備えた措置で、当面は学内施設として 利用される。少なくとも来年3月末までは現状のまま保たれる。パイプオルガンも、コンディション維持のため専属オルガニストとの契約を更新し、 空調も入れたままにする』と掲載があり、私もほっとしました。オルガンもホールもあの地にあのままに残り、音楽ホールとして 再開しますことを心から願っています。また新聞には、カザルス夫人から取り壊しの懸念について『想像もできません、恐ろしさに 胸が痛みます』と書かれていましたが、私も全く同じ心境であり、取り壊しではなく音楽ホールとして 継続することを心から望む者の一人です。


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