オルガニスト楽屋話

第122話  祈りを込めて〜東北地方太平洋沖地震に寄せて〜 ---2011.3.20.

この度の東北地方太平洋沖地震により、被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。 ご家族やご友人を亡くされた方々のことを思いますと、胸が痛みます。また今なお、 被災地で不便な生活を強いられていらっしゃる方々には、一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

3月11日午後2時45分、東京でもいまだ経験したこともない大地震でした。 ですから東北地方の揺れの大きさはいかばかりかと思います。 私は都心の青山から大森めぐみ教会へ練習に向かう車中、丁度教会正門に 着いたところでした。路上に立つ大きなミラーがゆ〜らゆ〜ら。45度位横揺れをしている! 風?・・風でこんなになるの?と思った瞬間、ガサガサガサという音と共に、 私の車も大揺れ状態に。地震だ!それにしても大きい、、、、恐怖におびえる。 冷静にならなくては、と、しばらく待ち、揺れがおさまった時を見計らって、 教会の駐車場の周りに何もない場所へ車を動かし、ラジオをつける。地震だ。 東北地方で。それから津波到達時刻の予告が始まった。その津波が、 一瞬にして1万人以上という尊い命と、町を破壊してしまうような驚異的なものとは 予想もつかなかった。その後も大きな余震が何度か続いた。おさまった時を見て、 教会内へ。釣る下がりの照明が大きく横揺れ、オルガンバルコニーに上がるとスウェルのケース の扉が開いていた、、、地震の大きさを知った。練習どころでない。再び外へ出ると、 遠くに火災が起こっていた、高台にある教会は遠くまで見渡せ、お台場で火災が起きた。 これはただ事でない、と慌てて自宅へ。電車が止まっていたので歩く人、そして学校などに 避難する人で、ぞくぞく道にも人が現れ始めていた。我が家は食器棚の戸が開いていたが、幸い 特に壊れたものなどはなかった。

テレビの報道で、少しずつ被害の様子が伝えられてきた。非常事態とも言える様な大きな災害だ。 翌朝、オルガンのことが気になり、再び教会へ。鳴らない音が2つ。地震によりパイプが 倒れたり動いたりしていた。これからの余震で倒れたパイプがさらにほかのパイプを倒したり、 2つとも大きなパイプなので、自重でパイプが変形すると直すのに時間がかかる、とのこと、 ありがたいことにオルガンビルダーの望月さんはすぐに対応、修理してくださった。 天井が破損したり、計画停電のため休館になるホール、私が監修する川口リリ アホールのプロムナードコンサートの出演者、B.マルクス氏はドイツから来日キャンセルを伝えてきた。 多くのコンサートが中止や延期になった。

私が10年来お教えしている宮城県白石でのオルガン講座の生徒さん方は、 みなさん宮城県内に在住。安否を心配したが、震災から6日後に、 全員の無事が確認でき、ほっと胸をなでおろした。東北地方のオルガンのことも心配だが、まずは人命。

地震、津波、原発の破壊による放射能漏れ、世界中へ報道も早かった。 海外からの友人達からはすぐに「Keiko 大丈夫?」「一言でいいから返信ください」 「いつでも泊まるお部屋はあるから」「出来ることがあればさせてください」というメールが続いた。 また日本に住むドイツ人の友人からは「これからドイツに戻ります」と成田から。慌てて電話をかけたが、 通信困難、連絡できない状況に。「必ず戻って来るから」と書いてあったが、きちんとした別れも無く友人との別れになった。

節電のため、東京も必要以上の照明は消えた。地下鉄に乗ると、パリにいるような錯覚に。 パリやニューヨークの地下鉄はもっと暗い。節約出来ることなど、これを機に私たち 日本人も見直すべきこと沢山あるのではないかと思った。

今日はオペラシティ・コンサートホールでロイド=ウェッバーの「レクイエム」公演。「オペラ座の怪人」や「ジーザス・クライスト・スーパースター」 などのミュージカル作品の作曲家として有名なロイド=ウェッバーの『レクイエム』(鎮魂歌)。沢山のパーカッション、 シンセサイザー、オルガン、ピアノに、コーラス、ソプラノやテノールのソリストにボーイソプラノも 加わるというユニークな編成の曲。途中、技巧的にも難しいオルガン・ソロも現れるし、32フィート管の重低音などオルガンは効果的に使われる。 曲の最後はオルガンがフルでティンパニと一緒に、悲惨な悲しみを訴える。この時、ステージの照明は突然暗転になり、 オルガンだけに赤い照明が当たるという演出もなされた。そしてボーイソプラノが「いつまでも、いつまでも」と歌い続ける感動のエンディング。

力強く歌われ、演奏され、皆の祈りを込めて捧げられました。 音楽には人を明るい希望を与え、元気、勇気付ける力があります。被災地で復興のために働いている方々を思うと、私にも力が沸いてきます。 私が今出来ることをしっかりやらなくては!と思わずにはいられません。 オルガンを弾くこと、演奏すること!明るい希望の光が被災地にも届く日が近いことを、心から願っています。


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