オルガニスト楽屋話

第129話  ボヘミアへの旅〜ポーランド・ヴロツワフでの演奏会 ---2011.8.24.

8月10日成田を出発し12時間、ミュンヘン空港に降りた。昨年12月の「ドイツ音楽ツアー」と同じ入国審査口だ、ツアーのことを懐かしく 思い出しながらEUに入国。ここでヴロツワフ行きの飛行機に乗り換える。 搭乗口からはバス、そこに待っていたのは小さなプロペラ機だった〜〜乗客は20人程、皆の顔もわかる人数だ。揺れるだろうと心配したが、 思ったより快適なフライトで1時間45分、午後9時半にヴロツワフ空港に到着。迎えに来てくれていたのは、流暢な英語を話す現地女性スタッフ、 挨拶を交わすとオルガさん(!)、“オルガン”に似たお名前だ。待っていた車に乗り10分程で宿舎に到着。演奏会は目の前にある教会でと 説明を受ける。何とも便利なロケーションだ。ここで出迎えてくれたのがデヴィッドさん、招聘メ−ルをくださり、その後、 連絡を続けてきたのはこの彼だった。メールでの印象でおじ(い)さま、、だったのだが、若い青年。音楽学者であり、 この教会のオルガニストで、今回のフェスティバルの企画者だった。教会付属の建物の4階に数部屋ゲストルームがあり、 その中の1室に案内された。屋根裏部屋だが、ロッジ風で木の温もりのある広いお部屋。約20時間の長旅だったが、無事到着。

翌朝、デヴィッドさんに案内され、教会へ。真っ白な円形の3階建ての会堂、オルガンは3階部分の後部バルコニーに聳えていた。 教会は1750年に宮廷の付属教会として建てられ(隣接する建物が昔は宮廷だったが、現在は歴史博物館になっている)、 オルガンは1752年に完成、ケースは当時のまま保存され、オルガンはその後1924年にSteinmeyerシュタインマイヤーという南ドイツの名オルガン製作家によって修復された。 白に金色の装飾がほどこされた、会堂に調和した美しいケースだ。3段鍵盤、49ストップ、美しいロマン派様式の楽器だ。

オルガンに案内された。演奏台に書かれた文字は全てポーランド語〜〜、ポーランド語はロシア語にも似て、 表記のスペルから意味を推測することすら難しい。一通りの説明を受けたが頭の中は大混乱〜、 コンビネーション(記憶装置)は経験のないようなシステム。またスウェルペダル(音量を調整するペダル)は 以前チェコで経験したが、通常の「逆」!、つまりいつもは踏み込むと強くなるのが、このオルガンでは弱くなる のだ、、ふ〜、、慣れるまでに時間がかかった。 Aeoline, Flet amabilis, Soloflet, Rurflet、、、などと8フィートのストップがずらりと揃った楽器。 教会の鍵を渡され、好きな時に好きなだけ弾いて良いと、、何て幸せ♪。響きの豊かな静かな空間で、 ロマンティックなオルガンを楽しんだ。タッチも繊細でよくコントロールでき豊かに歌うオルガンだ。 ポーランド人の優しい心にも似た音色の楽器で、人々の暖かさを感じながら、リハーサルは始まった。

ヴラツラフの街の旧市街はカラフルな建築物に囲まれとても美しい、その旧市街までも徒歩3分、 リハーサルの合間には食事をしたり、お茶を飲んだり、散策をしたり楽しんだ。 屋根裏にある部屋のベッドに横になると、天窓には青い空が。そこを白い雲がゆっくり動いている。 鳥のさえずりも聞こえる。ポーランドの空は演奏会前の緊張した私をリラックスさせてくれた。

8月14日日曜日、いよいよ演奏会の時間に。教会は3階席まで満杯になり、3階には立ち見(聴き)の方も。 日曜日の静かな街から想像もつかないような多くの人が教会に集まってきてくださった。 よく調整されたエレクトロニューマティックのオルガンは初めて弾いたが、 予想以上に繊細で敏感なことを知った。いつまでも弾いていたくなるようなオルガンで、 コンサートでの演奏はとても愛おしく大切に演奏。 オルガンの息づかいに心を合わせていると、ポーランドの人と心が通うような。 ポーランド語はわからないけれど、音楽で会話しているかのような錯覚に。 暖かい拍手の中、アンコールまで演奏会は無事に終わった。

演奏会後は、オルガさん(左から二人目のブルーのワンピースの方)お手作りの オードブルとワインを囲み、主催者の方々、 その友人の方々で小さな打ち上げパーティ。そして翌日の朝にもコーヒーに手作りのとても美味しいパンと ケーキ、暖かいおもてなしに感激した。

昨年に続き、今回もまた心暖かく、フレンドリーなポーランドの方々との出会いがとても嬉しく、 ヴロツワフも美しく素敵な街で、今年も最高の思い出が出来た。国や言葉の違いを越え、こうしてオルガンを弾 きながら旅できることは本当に幸せだと思った。


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