オルガニスト楽屋話

第146話  心温まる国、ポーランド〜カテドラルでの演奏会 ---2012.9.8.

ポーランド、ドイツへの旅から昨日帰国しました。日本はまだ夏ですね。ヨーロッパはお天気が良い日は半袖でも大丈夫な時もあり、 テラスで食事をしたり、カフェでお茶をしたり。みな最後の夏を楽しんでいましたが、 ジャケットやセーターは離せず、暖房が入っているところもあり、ダウンコートを着て、女の子はブーツ。 紅葉も始まり、季節はすっかり秋でした。

帰りはミュンヘン空港から。ルフトハンザの大規模なストで、1500便が欠航、混乱が予想されるから早めに空港に向かわないと。 そんな中、綺麗で美味しそうな食料品が並ぶDallmayr本店に、朝9時半の開店と同時に飛び込み、ドイツパン、チーズ、ソーセージを どっさり買い込み、ドイツを惜しみスーツケースに忍ばせた私。

さて今回の旅、まずはポーランドのお話から・・
ポーランドの暖かく心優しい人柄に惹かれ、今年もポーランドへ。今回はポーランド南部、 シレジア地方の中心地カトヴィチェでの『第17回音楽フェスティヴァル』に招かれ、街の中心にある大聖堂、 大きなカテドラルでの演奏会でした。
オルガンはHradetzkyというオーストリアの製作家の楽器。シドニーの有名な楕円形のコンサートホールにある大オルガンも この製作家の楽器だそうですが、3段鍵盤、43ストップのオルガン。 経験ないほどの長い残響のカテドラル、それにもかかわらず繊細な表現も可能にするメカニカルなオルガンは心地良く、 音楽表現、タッチを模索するリハーサル時間は続きました。

カテドラルから徒歩で15分程の所にあるミュージック・アカデミー、歴史を感じる古い建物と新しくモダンな建築が融合した立派な 音楽大学、その最上階のゲストルームに宿泊させていただくことに。ガラス張りの天井から採光のある応接間、 キッチン、寝室、バスルーム、Wifiはじめ全ての設備が整ったモダンで快適なアパートメント。 大きな窓から臨む景色も楽しみ、緊張した時間も楽しんで過ごすことが出来ました。

今回はこれまで演奏したクラコフやヴロツワフのような観光都市ではなかったので、ポーランド郷土料理というよりは、 地元のレストラン、イタリアンやフレンチレストランで食事をしましたが、どのレストランもきちんとした手作り料理を 提供してくれ美味しく、またマーケットで買った果物、ヨーグルトも安くて美味しかったです。

覚えた片言のポーランド語、、。“カヴァ”はコーヒーの意味で、「カヴァ」と言うと美味しいカプチーノが出てきます。 しかし、大失敗したのは“Butter”。バターを頼んだつもりが、出てきたのは紅茶〜?!!“Herbataバタ!”音はバタに聞こえる、、 これは紅茶(お茶)の意味で、無理して紅茶を飲むことに(笑)。

演奏会は日曜日夕方のミサの直後、午後7時から。演奏前にカテドラルの前方にある祭壇の所で紹介され、挨拶をしてから後方の バルコニーへ上がるようにと言われていたので、ミサが終わるのを祭壇横の控え室で待つ私。聖職の方々の控え室は鏡や洗面所だけでなく、 モニターテレビ、明かりの調光をする電光掲示板のハイテクな機材が揃い、そこにはステージマネージャーのような裏で働く人がいました。 暑かったからでしょうか、ミサが終わり聖職者の方々が続々と入っていきて真っ先にガウンを脱ぎ捨てる、すると全くの普段着。 カテドラルの楽屋裏、初体験でした。

カトヴィチェの皆さまから暖かい拍手を受け、演奏会は滞りなく無事終わりました。いつもながら、 暖かい拍手は嬉しいものでほっと安堵。

「演奏会後は食事に行きましょう」、、と音楽祭主催者の方からお誘いを受けていました。どんな所へと思ったら、 通されたのはカテドラル内にある司祭様の応接の間。そこは特別な雰囲気が漂う部屋で、大きなテーブルに蝋燭が点され綺麗に ディナー・テーブルのセッティングがされていて、さあどうぞ!と。司祭様の横に座り、主催者のオルガン教授ご夫妻と共に歓談の時。 神聖な場での食事に招待される、、これもまた初めての経験。グリーンピースのスープで始まり、メインディッシュは椎茸の肉詰め、 ハーブの香りの効いた白いお団子が付け合せに、そしてフルーツの入ったドレッシングのサラダ。デザートは手作りのケーキにコーヒー。 この大変美味しいフルコースのディナーは、練習に行く度にオルガンの鍵を渡してくれた司祭様のお世話人(?)のおばさまの手作り料理のようで、 そのおばさまが丁寧に心をこめて配膳してくださいました。

食事が終わると司祭様はgold bookと呼ぶ金縁の立派な本を持っていらして、大切な本だとお話ししながら見せてくださいました。 かつてこのカテドラルを訪ねたローマ法王はじめカトリック教会の著名な方々のメッセージやサインであり、 また著名なオルガニスト、ミシェル・シャピュイのサインも。

「ここにお願いします」‥「え?!!」。サインを求められ、大変驚き躊躇した私でした。後になってから、ゆっくり実感として 伝わってきたのですが、全てのことに心遣いと配慮があり、小さき私に、本当に温かく心の籠もった最高のおもてなしをしてくださいました。

演奏会の翌朝、ドイツのハンブルクへ。カトヴィッチェの街で過ごした間に出会った誰もが純朴で心優しく、 本当に素晴らしい人々でした。ありがとう!親切にしてくださった方々の姿を思い出しながら、宿舎を出て駅へ向かう。

歴史を感じる静かな街、人々は優しく、また美味しくて、趣のあるいい国だったな。赤いエリカや黄色い花々( 帰国してから調べたら「セイタカアワダチソウ」と言うそうです)が咲き乱れ、緑豊かな樹木の中を、 列車はのんびりと走っていきました。そして国境を越えドイツに入ると、列車はスピードを上げて走り始めました、 ポーランドさようなら!、また訪れる日が来ますように。

ポーランドの写真も合わせてご覧ください。)

ドイツのお話、写真はまた追って更新します。またお尋ねいただければ、幸いです。



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