オルガニスト楽屋話

第160話  キングスウェル・コンサートシリーズ始まる ---2013.4.12.

花々が咲き、新しい緑が芽吹き、明るい春の到来です。この美しい新年度、私の仕事の中で この春から始まることのうちのひとつ、 キングスウェルでのコンサート・シリーズが始まりました。
毎月第2木曜日のお昼に『ランチタイム・オルガンコンサート』、この企画に関わらせていただき、偶数月(4月、6月、8月、10月・・) には演奏させていただくことになりました。(この経緯につきましては、 メッセージ第153話をお読みください)

ワイナリーにオルガン・・世界中どこにもないような素敵でおしゃれな環境。魅力あるオルガンに 惹かれ、地元はじめ多くの方々に親しまれ楽しみ喜んでいただける会を開きたい、そうした夢、願いから始まったこの 企画、自然と力も入ります。
チラシの原稿を作り、デザインを頼み、データが出来上がると、同じマションに住み一緒に企画を進めている オルガニストの大槻由美子さんはレーザープリンターを購入され印刷し、山梨、長野界隈にチラシの配布を始めました。
ふちなし印刷が出来ればと思っていたところに、サイトから安価に印刷を頼める 印刷屋さん情報を知り、ネットで入稿。紙質を選び、クリック〜〜、数時間後に 印刷屋さんから「入稿完了」のメールが届き、 どんなチラシが届くだろうと、ドキドキしながら完成、宅配を待つ、、全て初めての経験でした。
完成を見たホールの方から1000枚増刷のお願いを受け、再びサイトから入稿。 当日配布のプログラム原稿は私がつくり、ホールの方に印刷をお願いする・・・こんな 準備期間があり、いよいよ昨日、第1回目のコンサート開催の日を迎えました。

一緒に企画を進めている大槻さんと朝7時に我が家を出発、同じマンションに住んでいるので 、打ち合わせ、相談はじめ共同作業の全てに好都合。
晴れ渡った青空、澄み切った空気の中、山の樹木の間にピンク色の桜、桃の花や、真っ白に雪化粧した富士山を 眺めながら、中央高速2時間半のドライブ。車中の会話は、「会の始まりはどうなるのかしら。」「ドアの開閉はどなたがしてくださるの?」 「ご挨拶やアナウンスが入るのかしら。」・・とにかく初回で全てが初めて、何もわからず不安も胸に。

10時にホールに到着、すでに会場では、スタッフの方々がスタンバイ、準備を始めてくださっていました。 オルガン演奏台の手元、椅子の中(?)、足元に3台の小さなカメラが設置され、ステージの上には スクリーン画面が。ここに演奏する、手や足(←オルガン演奏では重要)が映し出されるというセッティング。 私にとっては初めての経験でした。普段、見えない所で演奏することの多い私、 次回からは靴や靴下にも気を配らなくてはなりませんね(笑)。
12時開演なので、時間の余裕はありません。その間に、リハーサル、照明、マイクのテスト、オルガンの調律、調整が入り、 影アナやバックステージの打ち合わせ。全てスムースに。そしていよいよ開演です。

ヨハン・セバスティアン・バッハが愛し、好んだ、バッハの時代の名オルガン製作家の ジルバーマン・オルガンを復元した楽器。初回のプログラムはバッハに影響を与えた作曲家、 そしてバッハの作品を中心にし、最後にバッハの『幻想曲ト長調(ピース・ドゥ・オルグ)』。 明るく軽快なパッセージの後、壮麗な和声部に入りますが、不協和音が繰り返され、苦難、苦しみ、 不安に満ちたパッセージが続き、最後に希望と確信に満ちた輝かしいフレーズで曲は終わります。 希望や勇気を与えてくれる作品を、今回の会の最後に私からの音楽に托したメッセージとして、 会のため、また会場にお出かけくださったみなさまのために、心を籠めて演奏し、会の終わりとなりました。 演奏会の始まりはお客様も慣れない様子だったのですが、トークを交えて、ゆっくり会が進むうちに、少しずつ会場も和やかで暖かい雰囲気に。 私達の心配は全く無用で、演奏しやすい環境の中、40分ほどの会は、滞りなく無事終わりました。 会場に足をお運びくださいましたお客様、そしてホールのスタッフの方々とともにつくりあげた『第1回』でした。







私財で素晴らしいホール、オルガンをこの地につくられたオーナーの山寺様と笑顔で祝杯!(ワイナリーですが、 私がいただいてるのはクランベリーとグレープフルーツのカクテルです)。敷地内「カンパーナ」で 美味しいイタリアンをご馳走に。

これまでにすみだトリフォニーホール、新宿文化センター、東京芸術劇場、愛知県立芸術劇場、石川県立音楽堂はじめ 各地のオープニング、お披露目コンサートで演奏してきました。それは華やかな開幕、イヴェントでしたが、人の手によるもので、 今回はそれとはまた違う、ほんのりと暖かい心の交わり、実感のあるオープニングでした。

ホールの横にはイギリス人のガーデン・デザイナーにより設計され、ガーデナーによって手入れの行き届いた美しい イングリッシュ・ガーデンが隣接し、薔薇はじめ美しい花々が咲き、楽しませてくれます。
ホールも同じだと思います。良い土をつくり、種を撒き、丁寧に水を与え育てていると、やがて芽生え、そして 美しい花を咲かせてくれます。 いまひとつの種から、小さな花が開花しました。しっかりと思いを籠めて準備にあたり、豊かな土壌へと 耕していき、美しい花が咲き乱れる園にしていきたいものです。キングスウェルのオルガンも音楽を通して、 地域の皆様はじめ多くの方々に、喜び、楽しみを与え、心の癒し、安らぎの場になることを切に祈り、 これからの活動を進めていきたいと思っています。オルガンを生かすこと、それが私達オルガニストに 与えられた使命だと思いながら、心地良く車を飛ばし帰途につきました。キングスウェルではこれから毎月 「ランチタイム・コンサート」が開催されます、オルガンを身近に感じ、身近に聴いていただきたいです、 ぜひ覚えていただけましたら幸いです。





追記)当日の演奏は、YouTubeにアップされまています。演奏曲目は
シャイデマン「プレアンブルム」
パッヘルベル「聖ゼーバルトのアリア」
ブクステフーデ「前奏曲、フーガとシャコンヌ」
ブラームス「一輪の薔薇は咲き出でて」
バッハ「幻想曲 ト長調」

(2013.4.29)こちらのYouTubeにもアップされました。キングスウェルの 映像とともにお楽しみください。





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