オルガニスト楽屋話

第18話 普段の私 ---1998.6.2.

ある演奏会でのことです。その日はオルガンの話など、トークの入った コンサートでした。オルガンの話、また私への質問も終わりに近づき、 司会者から”ところでオルガンを弾いている以外、井上さんは普段は どんなことをするのがお好きなんですか?”・・との質問がきました。 私はとっさに”お料理したり、お掃除したり・・”と答えたのでした。 その答えに驚いた反応の司会者、そして会場にはざわめきが 起こりました。 何かおかしなことを言ってしまったのか、もう少しお洒落な返事を 期待されていたのか・・私の頭の中をよぎりました。その瞬間には、 その頃凝っていたタイ料理の話などが続いていました。

その時の会場の反応は私には理解出来なかったのですが、しばらくたって、 私の生活はいつのまにかオルガンとの時間が中心となって動いている・・ ということに気が付いたのでした。 日常の家事は、私にとっては気分転換、息抜きの時間になのです。 練習に疲れると掃除、朝起きてどうしてもオルガンを弾く気分になれないと、 洗濯を始める・・こういった調子。簡単に言うと私にとって <おさぼりの時間>、ですから楽しいのです。

演奏会の本番にはいつもベストコンディションで臨みたいと願う私は、 日頃の練習や勉強はもちろんですが、演奏に集中し、その成果が発揮 できるような自分の体調や精神状態をつくることにも、心がけています。 とにかく身体が資本ですし、いつも健康でありたいと、特に食生活には 気を使います。 とういうと格好が良いのですが、実は美味しいもの食べること、 作ることが好き、そして興味があるのです。ですから、思わず あの時も<お料理>と出てしまったのです。とりたてて話題にするような ことではなかったのかもしれませんが、私にはとても重要なことだったのです。

余談になりますが、今は我が家ではもっぱらイタリアン。魚と野菜を中心に、 オリーブオイル、バルサミコ、ハーブが活躍します。油や塩分は控えめ、 素材の味を大切にするシンプル料理ですから、あまり手がかからず、 それでいて栄養のバランスが良く健康的、またワインにも合います。 一昨年トスカーナ地方を旅した時にも、16日間毎食イタリアン、 少しも飽きることなく、バラエティに富んでいることも魅力かもしれません。 旅先で、訪れた地の味を楽しむことも、私の楽しみの中に含まれます。

また美味しいものを作るには味の研究も必要と、欠かせないのが食べ歩き。 こちらはイタリアン以外に、フレンチ、エスニック。 何かヒントを見つけては、<実験>を繰り返し、これもまた楽しんでいます。 イタリアンというよりは、かなりアレンジされた創作料理と言った方が 良いかもしれません。 私のような仕事をしているとお料理など一切出来ない、包丁など 持ったことがないと思われがちで、時々お客様などお招きすると、 ささやかな私の手料理にもひどく感激されるのは何とも<得>なこと。

オルガニストとして音楽と共に過ごす毎日、それでいて全く<普通の私>で いることをも楽しんでいる私です。

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