オルガニスト楽屋話

第19話 本棚崩壊 ---1998.7.6.

ある土曜日の深夜のことでした。翌日の教会の礼拝奏楽で使う楽譜を 取り出そうと、楽譜棚の一番上のバッハの曲集が並んでいる所に 手をかけました。その日はとりわけ疲れていたので、横着をして棚に 並んでいる状態で、どの曲集だったかな・・・と探し始めたところ、 手の重みが加わったこともあり、もう限界に近かった重さを耐えていた 本棚がついに崩壊したのです。 一番上の段でとどめておいて欲しいという瞬間的期待をよそに、 さらにその下も、またその下もと、棚は崩れ落ち、見事に全ての楽譜と 本が飛び出してきて、私はその下敷きになったのでした。

楽譜は増える一方で、オルガン譜はもちろん、スコア、それから 手に入らないような譜面のコピーなど、日本また海外で長い間かかって集めて きたものばかりです。 とりあえず、大きさまちまちの整理のしにくい譜面を床の上に積み上げ、 数日間、部屋の散乱状態を見ては、ため息をついていました。そのうちやっと 本棚の棚板の支えを強化、それから整理をしながら 時代順にでも棚に入れていこうと、少しずつ片づけ始めました。

演奏会や試験で取り上げた譜面には、沢山の指使いやレジストレーションの 書き込みがあり、懐かしい思いに浸ります。 そしていつか演奏してみたいと思い、集めた数々の楽譜に再び目を通す、 めったにない機会ともなりました。 本棚にありながら忘れていた作品が色々あることに気づいたのでした。 楽譜を手に取りながら思いついたことは、<これから 演奏したい作品リスト>を作ってみようということでした。 コンピューターに入力し始め、丸2日がかりで膨大なリストが 出来上がりました。

留学を終え帰国し演奏活動を始めてから10年以上経った今、演奏したい曲、 またいわゆる<名曲、知られた曲>のレパートリー、 それからオーケストラとのコンチェルト、またオケ中の作品も 演奏の機会が与えられたことにより、いつのまにかほとんど手の中に 入ってしまいました。

人の命にも限りがあるように、演奏家としての寿命にも。出来上がった作品リスト を見ると、まだこんなに接してみたい素晴らしい未知の作品があることを 改めて知り、許される限り私のレパートリーとして増やしていきたいと 思うと同時に、時間がどの位あったら、のんびりはしていられない ・・というあせりさえも感じるのでした。

オルガンの魅力が発揮できるような、そしてオルガンがより愛され、 親しまれる楽器となるような、<トッカータとフーガ>をしのぐような、 新しいレパートリーを開拓し、積極的にこれからの演奏会のプログラムに取り入れ、 紹介していきたい・・・思いもかけない本棚崩壊で、 また新しい意欲に燃えるのでした。

Index