オルガニスト楽屋話

第191話 ムーミンの国、フィンランドへの演奏旅行 ---2015.8.11.

7月23日ルフトハンザで羽田を発ち、フランクフルト、ヘルシンキを経由してトゥルクへ。トゥルク・国際オルガンフェスティバルほか、 4つの街、5つの公演に招かれての渡欧。首都のヘルシンキはじめ、タンペレ、トゥルクとフィンランドの3つの 主要都市は全て南に集まっているのですね(厳しい気候のせいでしょうか)、フィンランドに2週間、 その後6日間ベルリンで休暇を過ごし、20日間の旅から今日帰国しました。

フランクフルトからヘルシンキまでの飛行時間が長いなと思ったら、ヨーロッパ主要都市と時差が1時間。ヘ ルシンキ空港からトゥルクまでバスで2時間、ようやく目的地に到着。インターネットでバスのチケットまで 購入出来る便利な時代に。まだ昼間のように明るかったのですが、トゥルクに着いたのは夜の10時、 日本から約1日かかっての長旅でしたが、主催の方が出迎えてくれ安堵し、ホテルへ。

明るい夜、暗くなるのは夜の11時頃、朝は4時には明るくなります。白夜で眠れなかったらどうしようと心配しましたが、 翌日から各地でのリハーサル、本番と続くハードスケジュール、毎日疲れてぐっすり眠ることが出来ました。

トゥルクはフィンランド第3の都市、昔首都があったそうで、長い歴史と文化の香りが漂う古都、この街の中心であり、 シンボルでもあり、1300年に建てられフィンランドで最も由緒ある大きなカテドラルで演奏させていただきました。 観光客でも賑わうこのカテドラル、リハーサルは朝か夜。

4段鍵盤、85ストップの大オルガン、残響7秒という響きに魅了されながら、ここで昼と夜に2つの公演。 ヨーロッパの教会での演奏会、日本のように楽屋があるわけではなく、演奏時刻前、好きな時に教会近くに とっていただいたホテルから徒歩で直接入るのが普通です。今回各地での演奏会、開演が夜7時のところもあれば、 8時のところも、土曜日の午後5時、というところもあり、場所によってそれぞれ。時間(や日にち)を間違えて 私が時間にいなかったらどうなるのだろう、と思いながら。

コンサート終了後、バルコニーから下へ降りると、涙するおばあちゃまに握手とサインを求められました。 言葉は通じませんでしたが、音楽に国境はないと、私に音楽が与えられたことに感謝の瞬間でした。

次の公演はナウヴォ、スウェーデンに最も近い街でスウェーデン語ではナグー。街中の表記もフィンランド語 とスウェーデン語。トゥルクから約50キロですが、「多島群」と呼ばれる地域で、バルト海に無数の小島が浮かんでいる、 風光明媚で有名な港町でした。夏休み、海辺のコッテッジを借りて家族で過ごしたり,船やボートで港へ寄港したり する人たちで賑わっていました。ここでは船やボートは車のよう、バカンスだけでなく、移動,日常に使っている便利な足のようでした。

私はトゥルクからはバスで行きましたが、バスのチケットには「バス&フェリー」。一体どういうことになるのかと興味津々で 乗っていると、島と島の間、海のところを、バスごとフェリーに乗ることに。大きなフェリーで一般の車も乗りますが、 バスは優先で乗船します。大型の渡し船ですね。所要時間は約20分。乗客は車から降りてデッキに登ることも出来ます、 地元の人に利用が多いのか、外に出る人は僅か。私はもちろんデッキへ上がりました。大きく澄んだ青い空に真っ白な雲が 浮かび、青い海、その美しさに息を呑みました。

こうして向かったナウヴォでは、ナウヴォ室内楽音楽祭に参加、室内楽の演奏週間でしたが, 一日はオルガンのソロ演奏会として、石造りの響きの良い教会で弾かせていただきました。 美しいだけでなくとにかく全てが愛らしい街。そこで宿泊させてだいた教会脇にあるお宿はプチホテル。 インテリアももの凄く可愛らしくて、エンジョイ。美味しいお魚料理、解禁になったばかりのザリガニのスープ (7月に解禁になり、みな大騒ぎ)、サーモンのグリル、は忘れられない美味しさ。

実は以前、15年程前に北欧の旅で、数日でしたがフィンランドに滞在したことがありました。 その時あまり美味しいものに出会えず、今回少し心配だったのですが、その心配は全く無用であり、 お魚、お肉、野菜、果物、新鮮な素材を生かし、ハーブなど香辛料を上手に使い、ベリーのソースなど、 鮮麗されたお味で、フィンランド料理というのはないようですが、バランスよくセンス良く、 近隣諸国(ドイツなど、、ごめんなさい)よりはるかに美味しく、センスが良く。緊張した演奏旅行に 本当に救われたことでした。ただし物価は高いです。演奏会も有料ですが、会場には多くの人が集まります。

ナウヴォでの演奏会も、教会は人でいっぱいになり,演奏後にはお花と地元名産?のケーキのプレゼントまでいただき、 音楽祭の主催者やマネージャーの方に親切にしていただき嬉しいナウヴォ・ステイでした。

余談になりますが、フィンランド人、もの静かです、そしてとても親切。お店の店員さんなど見知らぬ人でも、 とにかく丁寧で暖かく、笑顔に溢れ。子供達も静かでお行儀の良いこと。ムーミンの国だなと痛感しました。

ナウヴォでの公演後、今日演奏した○○の楽譜が欲しい、弾いてみたいので、 とオルガニストの方から。日本に帰ったらメールで送っていただけますか、、、と。 コピー譜だったので、「どうぞ!」とその場で差し上げてしまいました(それが大変なことになるとは思いもせず、、 、後の話をお読みください)。

美しい地、ナウヴォで見た夕日は(午後10時半過ぎです、、)とりわけ美しく感じました。

さて次は、タンペレでの公演。列車移動です。列車内Wi-Fiが無料で使える。 フィンランドは世界一ネット環境が進んでいると聞きましたが、確かにホテルはもちろん、 カフェ、レストラン、至る所で無料Wi-Fiに繋がるのには驚き、日本との連絡、また現地の人との連絡にも便利でした。

タンペレはフィンランド第2の都市、ここは工業都市であり都会でしたが、 ここでも街のカテドラルで演奏させていただきました。ここのカテドラルには2台のオルガン、 一台は2段鍵盤のネオバロックオルガン、もう一台は3段鍵盤、74ストップのロマンティックオルガン。 プログラムの半分はネオバロックオルガン、半分はロマンティックオルガンで、演奏会の途中でカテドラルの前から後ろ へ歩いて移動し演奏。2台のオルガンを弾く、特に大オルガンに慣れるのに時間が必要でした。 しかしながら観光客の多いカテドラル、また街の中心的な教会、結婚式も多く、とりわけフィンランドの人 の結婚式はほとんどが気候の良い夏に集中しているそうで、リハーサルはここでも朝か夜。教会の管理人の方も夜は帰ってしまい、 2000人収容するという大きなカテドラルに私はたったの一人でしたが、明るい夜のフィンランド、 怖い思いもせず、無事演奏会は終了。この街では突然の大雨、曇りがちの寒い日も多かったのですが、 演奏会の日は晴天に恵まれ,演奏会後、オルガニストの方との食事会も楽しい時でした。

さてフィンランドの夏ですが、気温は15度〜18度、曇り時々雨が多く風も強いので、体感気温は10度位でしょうか 、日本を出るとき触るのも暑い、万が一のためにと思って持ってきたセーター、ダウンベストは手放せず、 寒さに震え持って来たものすべて重ね着していた日も多かったです。東京から届く猛暑の話から暖気を 半分わけていただきたいような陽気でした。 しかしながら太陽が照り始めると、人々はノースリーブ、夏のワンピースを着て外に繰り出してきて、 カフェのテラスや川辺のベンチで日向ぼっこ、語り合っている、アイスクリーム屋さんもこの時ばかりは大賑わい。

タンペレでの演奏会後、一度トゥルクに戻り。今度はサウヴォでの演奏会、最後の公演。重い鍵盤の楽器もあり、 立て込んだスケジュール、さすがに指も少々疲れてきている、でもあと一公演。翌日はリハーサルにコンサートが同じ日という、 ちょっとハードな日。楽譜を用意して眠ろう、と思ったところ、しまった〜〜!!ナウヴォの演奏会後に差し上げてしまった曲 を明日弾くことをうっかり忘れていた私、、、。5公演オルガンが違うのでプログラムはそれぞれ違いますが、もちろん一部は重なっています。

あわててナウヴォのマネージャーさんに、ホテルへファックスで送って欲しいと電話。 明日の朝、9時半に迎えが来るので、その時間までにお願いします、、と言ったものの、朝9時になっても届かず、 何度もホテルのフロントに問い合わせる私。困ったな、とメールを開いたら、添付ファイルで届いていた。 どうやってプリントするの?!!またまた慌てた私。落ち着いて!と自分に。PCを持っていって弾く、、 いや無理。仕事のデータのために、メモリースティックを持って来たことを思い出し、楽譜のファイルを保存。 ホテルのフロントに飛び込み、印刷させてください!とお願いすると「そちらのPCでどうぞ!」。お〜便利、 プリンターに接続されたPC!!メモリースティックを入れ、印刷完了。そこへお迎えが登場、ぎりぎりセーフ。

出かけたナウヴォは小さな街で、昼食を食べに行っても、街を歩いていても東洋人は目立ち、 またTVで演奏会の告知があった?とかで、「夜のコンサート行きますからね」などと色々な人から声をかけられました(笑)。

終演後はその地のオルガニストのご自宅へ招かれ、お手作りの魚と野菜、チーズとハムの2種類のキッシュ、 シャンパンにワイン、サラダ、、のディナー、素敵で大きなお家での歓迎、今回の音楽祭の主催者、オルガニストの方々が 集まり、暖かい方々に囲まれてのフィンランド最後の夜となりました。

これまた余談ですが、滞在中、フィンランドの家庭の「ディナー」というのに2回招かれました。 ドイツだとハム、チーズ、のなるのでしょうが、フィンランドでは手作りキッシュ、手作りの果物のケーキ、で、 どうやらこれが一般的な夕食のようでした。美味しかったです。広いお庭があり、そこにはお花や野菜が丁寧に育てられ、 お家は木作りで暖かみがあり、家庭にサウナがありました。電気で暖め45分の程で入れるよ、良かったらどうぞ!と。 サウナの後はシャワーを浴びる習慣のようで、そのせいかバスタブは見ませんでした(ホテルも地下にサウナはありましたが、 お部屋はシャワーだけ)。

他のヨーロッパ諸国と違うことは、日本と同じように1階は1階です、スーパーマーケット、デパートは 日曜日もオープンして買い物が出来ます、レストランに入るとお水が出てきます、チップの習慣がありません。 初日、ベッドの上にチップを置いたら、部屋に戻ったら律儀にもコインはそのまま置かれていました。

「モイ!」、「モイモイ!」、可愛い響きのフィンランド語。モイはアロハ、ハイ、 モイモイはバイバイ。スーパーマーケットのレジでモイ、モイモイ、と心地良い響き。 フィンランド事情にも少し慣れてきた頃、私のフィンランドの旅も終わりに。

涙してくれたおばあちゃんはじめ、多くの方の優しさ、暖かさを感じた演奏旅行でした。 皆様の優しさに答えたいと、また小さき私が美しい響き、素晴らしい環境で演奏させていただけると いう恵まれた機会に感謝の思いでいっぱいで、5つのコンサート、大切に弾きました。 去って行く時間は愛おしく。暖かく向かえてくださり、お世話になった方々、出会った方々、 青い空、森と湖、美しい自然の国フィンランド、素晴らしい国でした。 世界で幸せな国の2番目にフィンランドがランキングされているそうですが、納得。

以前、NHKのTV番組『旬の人、旬の話』で、「将来の夢は何ですか」と聞かれた時に「小さな街でもいい、 世界のいろんな所で弾きたい」と答えていた私。昔、心に抱いていた夢がいま叶えられ、 小さき私に与えられた機会に感謝しつつ、フィンランドでの演奏旅行は終わりました。

旅先での写真を写真の ページにアップしました(8月13日)。ご覧いただけましたら、幸いです。


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