オルガニスト楽屋話

第225話 森と湖の国、フィンランド演奏旅行 ---2019.8.14.

今年の夏は、フィンランドで4公演、その後、夏休み休暇もかね、23日間フィンランドで過ごし、昨日帰国しました。 瞼を閉じると、4つの演奏会の教会、それぞれの街の風景、出会った方々、お世話になった方々のお顔が映ります。

3度目のフィンランドですが、今回はフィン・エアで成田空港からヘルシンキへ。ムーミンのスーツケース・タグ、 機内で配られるアメリティはマリメッコ、早くも機内からフィニッシュ・モードに。 通常のヨーロッパ諸国より、2時間半も早く着くフィンランドは最も近いヨーロッパ、近いです。

コンサートとリハーサルのスケジュールがタイトなので、まずはヘルシンキから3つ目のコンサートの地、フィンランド中部にあるクオピオという街へ飛行機を乗り継いで直行。 先にレジストレーショ、音作りだけしてくおくことに。
最初に泊まるアパートメントのオーナーさん、イルポさんが空港へ出迎えてくれました。全く見知らぬ人です、、信じられない、、 本当になんて親切なの!、、こうした場面は旅の最初から始まりました。

Kiitos キートス 英語でThank you!ですが、どの位、感謝、有難う、と言ったでしょうか。フィンランド、静かです、 フィンランド人、ムーミンにも似て(余談ですが、体型も、、)静かで穏やかで、そして間違いなく誰もが親切で、優しく、 そしてとても安全な国でした。

最初の演奏会はナーンタリ。大統領の夏の別荘もあるという、美しい港町(上の写真がナーンタリの港。)そして写真の高台に見える教会で、 バロック様式の3段鍵盤のオルガンでの演奏会でした。ヨットハーバーがあり、レストランが並び、可愛い家が立ち並ぶ素敵で 綺麗な街。明るい太陽の下、夏の休暇を楽しむ人で大賑わい。羨ましく横目で見ながら、リハーサル、本番、と緊張の時間を 過ごす私でしたが、美しいオルガンをこんな素敵で綺麗な街で演奏出来る幸せに満たされました。(左の写真が、その教会内で)

実は教会から下った所にある小島、島ごと全体がムーミン・ワールド。あと3公演残されている、そんな余裕があるのか私、と迷いつつも、、、 翌日の午前中、小走りでムーミン家族に会いに!ムーミンの家やムーミンが過ごす谷間が、島の自然をそのまま使って作られています。 リスにも出会いました。フィンランド人の小さな子連れファミリーで賑わうムーミン・ワールド、子どもも大人も笑顔に。 トーベ・ヤンソンが描くムーミンの世界、ムーミンのキャラクターもですが、フィンランドの家や自然、まさにフィンランドです。癒された時間。

そして次の公演の地、トゥルクへ。主催者からタクシーで移動するように言われタクシーで30分、この移動は楽だったのですが、 ヨーロッパ諸国にアフリカからの熱風が流れ高温になった翌日、ここトゥルクでも32度まで。プールへ朝に夜にと行ってしまいました。 水質、設備、経験のないような感動の50メートルプールでして、半分から深さ8メートル、体が浮き、そしてフィンランドの水は良いので、 水質も良く、青空の下で、クーリングとリフレッシュ。ロッカールームやシャワーの設備は、これまで行った海外のプールの中でも最高のプールでした。

しかしその2日後は、一気に14度も気温が下がり、コートが必要な気温に。その後、気温が20度を超えることは滅多になく、朝は10度を切る日も。 暑くてどうしようかと思った日も、フィンランド人はむしろ少ない夏日、太陽の日差しを楽しんでいるようでした。

トゥルクのカテドラル(右上の写真は、その演奏台で)には、84ストップ、4段鍵盤の大きく迫力のある楽器。ここでの演奏は2回目で、4年前にも演奏しているのですが、 3か月前に新しくしたというコンビネーション、どこにもないような最新のコンビネーション・システムにはびっくり。 まずloginし、あらかじめ入力されているに私の名前のエリアへ、暗証番号で入っていき、そこへ記憶させるというシステム。 カードやUSBメモリーカードよりbetter、USBは上書きの危険が大、またコード番号を受け渡しする必要もなし。メモリー機能が新しくなっただけでなく、カプラーも増設されていました。

トゥルクで一番購読されている新聞の取材を受け、一面の大きな記事に。そのせいか、コンサートはこれまでにない集客、プログラムが足りなくなり、困ったとか。 残響が長い大聖堂に、多くの方々からの暖かい拍手の中、2つ目の演奏会は終わりました。主催者や地元のオルガニストの方々と夕食を共にし、 宿泊のアパートメントに戻ったのは夜の11時、ようやく日が落ち、暗くなる頃でした。

翌朝早起きしトゥルク駅へ、音楽祭の主催者の方が送ってくださり、列車で6時間、重いスーツケースを持っての2回乗り換えは大変、、 森と湖がずっと続く車窓を眺めながら、再びクオピオへ。駅からタクシーでホテルへ。チェックインし、すぐに楽譜と オルガンシューズをスーツケースから取り出し、カテドラルへ。深夜までのリハーサル、流石に疲れた一日でしたが、 翌日までに何とか疲れを回復させ、リハーサル、本番。

クオピオは無数の湖に囲まれた街で、街のどこからも水が見えます。高台に建つ白亜の教会には、美しく歌う3段鍵盤の楽器があり、 ロマン派の曲も弾きやすく、与えられた幸せに感謝しつつ、一音一音心を籠め、大切に演奏出来ました。(右上の写真は、クオピオのオルガン前で)

高台に建つ白亜に石が埋め込まれた美しい教会(左の写真です)、、ここのオルガニスト、アンネさん、女性の方と夕食、美味しいフィンランド料理をいただきながら、 様々な話に盛り上がり、またまた眠りについたのは深夜遅く。
この教会で驚いたのは、オルガンの後ろにトイレが完備していたこと、、これまで初めて!オルガンバルコニーへは4桁の暗証番号で入れ、鍵はなし。 どこでも教会は(世界中)鍵やトイレの心配があるのですが、完璧でした。
夜11時まで明るく、夜間のリハーサルも暗くなることなく、寂しがり屋で暗さに弱い私には嬉しいこと!持参した懐中電灯は全く不要でした(笑)。

そしていよいよヘルシンキへ。またまた早朝の列車へと駅へ、そこから4時間半。人がいっぱいの中央駅へ到着。日本人の姿も多く、 トラムや車が走り、空気も違う。わあ、久しぶりの都会。

アパートメントへ向かい、そしてその夜、早速リハーサルにカテドラルへ。ひっきりなしに数多くの観光客が訪れるこのカテドラル、 リハーサルは夜間。オルガンはデンマークのマルキュッセン。武蔵野、福島のホール、そして青山学院大学相模原(かつては厚木キャンパス)で 馴染みのあるビルダーです。オルガンのコンビネーションの取説が、フィンランド語のみ。オルガニストの先生が、説明をしてくださるものの、 かつて出会ったことがない、難解なシステム。(少し、東京芸術劇場のオルガンのシステムに似ていますが、、)。 習得するのに30分以上、、3時間という貴重な時間なのに。そして弾き始めると、鍵盤の重いこと、特にカプラーの重いこと。疲れている体のせいか、、 それにしても重いな、、と格闘しながらの深夜のリハーサル。これは苦戦しそう、と眠りにつく私。

その翌日のリハーサルは2時間のみ。夜の9時から11時。「練習後、教会の扉はどうなっていますか?」と尋ねると、 「夏の夜、教会は夜12時まで開いています。ヴォランティアのスタッフが会堂内に常駐しています。開いていますし、 そのまま帰って大丈夫です。」と。深夜12時まで人がお祈りに来る、、これも白夜の国ですね、驚きました。

そして演奏会当日。リハーサル時間はあるものの、そうは弾けない、疲れてしまう。そこそこのウォーミングアップ程度、 1時間半ほど弾いて、一旦宿舎へ帰り休憩し、本番へ。色々な楽器があります、力を与えてください!と祈るような気分に。

そうして臨んだ演奏会でしたが、本番は楽器と心が合い、一体となり、弾きやすい楽器となり、気持ちよく演奏出来ました。 本当に不思議、不思議!どこからかパワーを与えられた感じ。駐フィンランド、日本大使もご臨席くださり、 またたまたまヘルシンキを訪ねていたという声楽家、そのご友人、ほか何人かの日本人の観光客の方、 同じように偶然旅行でヘルシンキを訪れていたというポーランドのオルガニストの方、、はじめ多くの方にお聴きいただき、 終演後も多くの拍手をいただき、私自身は4公演を無事務められましたことにほっとした、ヘルシンキ・カテドラルでの演奏会でした。

このフィンランドを代表するカテドラルのオルガニストは、著名な作曲家の先生でした。こうしたことは事前によく リサーチしておくべきでした(反省、、)。何も知らず、ハキムや武満、の現代作品を演奏した私でした、、。 しかしながら、私の演奏を大層気に入ってくださったとお褒めの暖かいお言葉。そして驚いたことに、その数日後、 私が宿泊しているアパートメントの住所を探し、作品のいくつかを届けてくださり、献呈してくださいました。 約400曲のオルガン作品があると、オルガン協奏曲も。再び、フィンランドで演奏の機会も与えていただけそうで、 また勉強、目標、夢が広がったヘルシンキ公演でした。

今回訪れた街のオルガン、教会、風景を写真の ページにアップしましたので合わせてご覧いただけましたら嬉しいです。





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