オルガニスト楽屋話

第237話  トップ・アスリートに思う ---2021.6.1.

緊急事態宣言延長、辛抱の時は続きます。マスク無しの自分の顔を忘れてしまいそう、。
大阪なおみさん、記者会見拒否・・・トップ・アスリートからの提言、あるいはトップ・アスリートの素直な本音 なのでしょう、大阪なおみさんのプレーは称賛しますが、この行動に私は少し驚きました。
試合そして記者会見までが彼らの「仕事」なのです。プロであり、それで収入を得ているのですから、仕事です、 ファンのため、マスコミのため、全うしないと。それを拒む、真っ向から拒否の主張をするとは、気持ちはわかるけれど、 若いな〜。試合も辞退とは勿体無い。

取材陣からのつまらない質問、、などなど、、試合の後に対応したくない気持ちはよくわかりますが、嫌な顔など見せず、 カメラの前に出てインタビューを受けるのもプロとしての「仕事」だと思います。

ジャンルやレベルは全く違いますが、好きなことを仕事としていても、いつも「自分のやりたいこと」だけ出来るわけではありません。 コンサートやCDの宣伝のため、雑誌や新聞の取材にも(快く、笑顔で)応じなくてはなりません。 オルガニストに向けらえれるお決まりの質問・・「どこのオルガンが一番好きですか?」・・ この質問には正直うんざりします。オルガンの大きさや様式、それぞれ違います。それぞれに特徴、特色、個性があり、比較できないし答えられない。また 演奏するときにはいつもその楽器を好きになって弾いています。ですので、一番好きなオルガンを問われても、答えられないのです。 「・・人と同じです。一人一人みな個性があり、性格も違います。 好きな人、素晴らしい人、尊敬する人、、いますが、その中で誰が一番好き、と聞かれても、答えるのは 難しいでしょ。オルガンも同じなんです。」と。時にうんざりするような質問が向けられても、笑顔で答える、、。

「(バッハの)トッカータとフーガを弾いてください(プログラムに入れてください)」・・・この曲、実は偽作、つまりバッハの曲ではないかもしれないと言われている曲、 だから、バッハの他の曲とも異なり、わかりやすく聴きやすいのかも、、ですが、 誰もが知るあの曲の冒頭部分。演奏はさほど難しくないですし、少し練習すればすぐに弾けます。でも(!)・・・それよりももっと良い曲、素晴らしい曲があるし、そうした曲を本当は弾きたい!披露し、知ってもらいたい! 正直これが本心ですが、やはり主催者やスポンサーさんの希望は聞きます。お客様が楽しめるように、、これも大きな要因ですから。ですから、わかりました、と答え弾きます。 このような対応がプロだと思ってやってきました。

CD録音・・・レコード会社にとっては良い録音をすることもですが、当然、販売、売ることが最重要。多くの人が聴きたいと思う曲、知名度のある曲・・ 選曲の話し合いは続きます。私は10枚以上のCDを録音しましたが、何枚も続いて録音するようになってからは、1枚は全曲レコード会社の希望通り弾きます、 その代わり、次の1枚は私の希望を聞いてください、、と交互になったり、、そんなこともありました。

大阪なおみさんも、とても繊細であり、また大きなプレッシャーの中での試合、ストレスもあるでしょう、、よくわかります。 世界ランキング1位ともなれば、それは上に行けば行くほど大変なことであろうと。精神的にもどんなに大きなプレッシャーを受けているかと、 体にもダメッジが来ます。

演奏会も、逃げ出したくなるようなプレッシャーを感じることもあります。なんでこんな話を引き受けたのだろう、、と後悔したり。 コロナ禍で演奏会のキャンセルなど、今は信じられないことが起こっていますが、通常は公演キャンセルなんてあり得ないけれど、 それこそ何かの理由でキャンセルになれば、、などと思ってしまうこともあったりしました。終わってみれば、そんな 思いも取り越し苦労、弾いて良かったと思うのですが、こうした心境、自分の弱さに勝つために、心をコントロールすることも必要です。

彼女はうつ病と公表しましたが、プレッシャーと病は表裏一体です。 心と体をいつも元気に整えている・・これも演奏家にも課せられたものであり、体調管理と共にまた大変です。

ある演奏会の前日、体調不良で点滴を打って新幹線に乗った日もありました。病院のベッドに横になり、点滴瓶から落ちる点滴を見ながら、目前に迫る大きな不安に涙したこと。 翌日、京都市交響楽団と京都コンサートホールでの公演でした。 東京芸術劇場でのエンパイヤ・ブラストとの公演の朝起きると、まさかの血尿。日曜日の早朝、対応してくれるお医者様もいない。公演は午後、時間もない、、マネージャーさんに電話をすると、 とにかく会場まで何とか来てください、と。ホールの 提携病院(公演中に急病人が出た場合などに備え、そういう病院があるのですね。)の時間外診療で特効薬を打っていただき、オルガン演奏台から 最寄りのトイレまでの動線のドアを開けて(笑)演奏会は始まりました。東京芸術劇場のオルガンはご存知の方もいらっしゃると思いますが、 ステージより高いバルコニーにあり、客席では3階の高さ。最寄りのトイレは楽屋ではなく、3階客席のトイレでした(笑)。トイレへ駆け込むこともなく無事終わりましたが、 本当に思い出す度に冷え汗ものです。 サントリーホールでのソロリサイタル、チケットは完売、朝から調子が悪く食べ物が食べられず、紅茶いっぱいで演奏した日のこと。お砂糖を入れたら、という 母の忠告が良かったのかも。いつも笑顔でステージに立っていた私ですが、長年の多くの公演の中には、色々なことも。 プレッシャーとストレスに心身共に疲れ、自律神経が病み、どうにもならない自分に悩んだ辛い日もありました。

「無観客ならば出場を考える」と言うジョコビッチ選手。確かに、観客(聴衆)があるとないでは、演ずる者としては大違い。わかります、 誰かが見ている、聴いている・・・ことで、心の持ち様は全然違います。プレーも違ってくるのでしょう。これもトップ・アスリートだから言えること。

緊急事態宣言下・・タイトなスケジュールもなく、穏やかな日々、私にとってはむしろ丁度良い体のメンテナンスの時間にもなっています。 予定ならばドイツから恩師サットマリー先生も来日し、一緒に演奏も出来た、、14日の隔離規制ゆえに、多くの外来演奏家が来日出来ないことになっている昨今に、 オリンピックだけ特別扱いには疑問。

額紫陽花・・子供のころ、玄関先に咲いていましたが、こんなに可憐で愛らしく綺麗な花だったかな、、。コロナ禍の時間ゆえか、花々の華麗さが一層綺麗に見えたり、 この時間の流れ、気持ちの余裕ゆえでしょうか、ゆっくり楽しむゆとりが出来たのかもしれません。今日もオルガンと対話し、新しい音楽的な発見がありました。
ワクチン接種が進んだ諸外国はマスク無しの生活が戻って来たとのこと。まだまだ変異株が出たり油断は禁物でしょうが、トンネルの出口も近いかな、と。 与えられたこの時間、まだまだ辛抱の時ですが、先も見えてきました、日常の生活が取り戻せる日を信じ、心豊かな日々を過ごしてまいりましょう!そして、負けないで!!大阪なおみさんのこれから益々の活躍、 エールを送ります!






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