オルガニスト楽屋話

第24話 浮気で発覚・・すみだトリフォニーホールのオルガンの魅力 ---1999.1.3.

明けましておめでとうございます。新しい年、いかがお迎えでしょうか。 大晦日、私は恒例のサントリーホールでの<ジルベスターコンサート>に出演・・ 鈴木敬介氏のオシャレなカウントダウンの演出で、 元旦0時0分は過去6年ほど、毎年オルガンのところで迎えております。 今年もまたオルガンと共に、忙しいけれど充実した毎日を過ごせそうな私、 幸せなスタートです!

11月末から横浜みなとみらいホール、盛岡市民文化ホール、札幌コンサート ホール・・と各地の新しいオルガンでの演奏が続きました。 どれも個性的な美しい楽器で、演奏する喜びを感じました。 そしていつも心がけているように、私に与えられた楽器を、心の底から愛して 演奏してきました。

札幌から戻り、次は すみだトリフォニーホール へ。 いよいよ私のホームグラウンドでありますこのホールでのクリスマスコンサート、 久し振りにトリフォニーのオルガンと再会した私でした。

それは久し振りに愛する大切な恋人と再会するような心境で、 またしばらく弾いていなかったオルガンは私の帰りを 待ち受けていてくれたかのように感じられたのでした。 何て<優しさを感じる>楽器なのでしょう。 私の心を理解してくれ、自由自在に表現できる楽器での演奏は、 何とも心地よく、それは感動的な、嬉しい再会でした。

”すみだトリフォニーのオルガンはどんな楽器ですか?”・・度々 尋ねられるこの質問の答えに、実は私はそれまで困っていました。 とりわけ明確に言える個性を持っていない、と思っていたからです。 しばらくぶりに、そして色んな楽器を弾いて帰ってきた時、これまで 気が付かずにいたこのオルガンの魅力を知ることが出来たのでした。 このオルガンはある意味では無色、でもそこから多くの色が引き出せるということです。 沢山の色の絵の具を揃えていて、無色のパレットが私の前に 差し出される・・その絵の具たちから無限の色を創り出すことが出来る・・ そんな楽器なのです。

個性的な楽器は、その個性に合った演奏をすれば演奏家も楽器も生かされる、 一方トリフォニーの楽器は演奏家の個性に答えてくれる楽器と言えるのではないでしょうか。 音量で人を圧倒させるのではなく、音色と優しさ、暖かさ、繊細さで 人の心を動かすことが出来る楽器だと思います。

専属オルガニストとして、幸せなことにこの楽器と長い時間過ごすことが 出来ます。誰もいないホールで、オルガンと過ごす貴重な時間・・沢山の インスピレーションが沸いてきます。多くを学ばされ、私を成長させてくれます。 これからこのホールでの演奏の機会は、<オルガニストは自分の楽器を 持ち歩けない>というこれまでの概念を打ち破る、まさに理想的な <自分の楽器>と言えるような心の通い合ったオルガンでの演奏となります。 私の愛する楽器が、より多くの方に愛されるようにと、そして 演奏していきたい、聴いていただきたい作品達が頭をよぎります。 クリスマスシーズン各地の色んな楽器を好きになって演奏してきた私ですが、 あらためてトリフォニーのオルガンの魅力を知る機会となりました。

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