オルガニスト楽屋話

第41話 人前で演奏すること ---2000.10.23.

子供の頃、人の前に出ることなど大嫌いで、みんなの 後ろに隠れていた私が、演奏家という職業に就くとは、 想像も出来なかったことです。

ステージに立ち、人前で演奏するには、大きなパワーと気力が必要です。 人の心に何かを語りかけたいと思うと、 私からも何かしらのパワーを積極的に放出しならないからでしょうか。 集中できるよう、演奏前は出来るだけ穏やかに過ごせるよう心がけています。

またプレッシャーもあります。まさに一発勝負で、緊張はつきものです。 自分の音楽を思いのとおり表現し、良い演奏をしたいと思うのは当然の こと。でもやりなおしがききません。 正直言って、もっと平穏な職業を選べば良かったと 思ったり、逃げ出したくなるような瞬間もあります。 そんな時、信じらるのは、”日頃の努力”のみ。

音楽にどのくらいの情熱を傾けたか、いかに努力し勉強したか、 正直な答えが返ってきます。100パーセントの力を出すには、 120パーセントくらいの準備が必要です。

自分の中で暖めた音楽が、人前にさらされる訳ですが、 その作品を弾く度に、演奏は成長していくように思います。 時間をかけ技術的に完成度が高まったということだけでなく、 より自分が音楽に近づけたという手応えを感じるのです。

聴き手がいるのといないのでは、全然違います。 一回の演奏から、何十時間もの練習よりも大きなものが得られます。 どんなに練習を積んでも、聴いてもらうという機会がなければ、育ちません。 演奏家は演奏することにより成長するものです。 とりわけオルガニストの場合、様々な楽器にふれるということも、 最高の勉強につながります。 女優さんが舞台に立つ度に美しくなるのと同じように、演奏も 人前に出る度に磨きがかかるように思います。

次々と演奏の機会が与えられ、ひとつひとつの目標に向かって 絶えず努力しなければならない環境に置かれている私は、幸せだなと思います。

”走ることが楽しい”というマラソンの高橋尚子選手のキラキラ輝いた笑顔、 そしてノーベル化学賞の白川英樹教授の”たゆまぬ努力”という言葉が 心に残ります。

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