オルガニスト楽屋話

第54話 感動すること ---2002.2.8.

世の中には、楽しい〜! 面白い〜! ことが氾濫しています。でも「心を動かされる」 ことって少なくありませんか?

例えば、人は美しい絵を見ると、心を動かされます。私は旅が好きなのも、美しい景色を見たり、 歴史的な芸術品に触れ、感動する出会いを重ねたいから。

これまで演奏することしか頭になかった私ですが、企画に関わらせて いただくことになり、内容やプログラムとともに、一体聴衆は何を求めて 演奏会に来て下さるのかと考えるようになりました。何か特別なものが得ら れると期待し、チケットを買い、会場へ足を運んでくださるのでしょう。

楽しみ方、聴き方は人それぞれだし、もちろん自由です。でも私は、 オルガンの演奏を聴き、音色、音楽、演奏、奏者にと、きっかけは何でも良いから、 ふと心を動かしていただけるような時間を提供したいのです。 未知なものに接した時、びっくりしながらも微笑む、感受性の強い子供たちを想像します。 専門的な知識や理屈は必ずしも必要ではありません。私は正直言って、自分が専門家で なかったら、もっと楽しめるのではないかと思うことがあります。むしろ、人間の本能的な 感情を呼び起こして欲しいのです。

でもこれは、日常の生活からはなかなか得られないもの。だから、コンサート会場へと お出かけいただきたいです。 とりわけオルガンは、日本人には縁遠い楽器です。こんな楽器と毎日を過ごしている私は、 変わり者ですね。キリスト教会の中で発展してきたせいか、オルガンは 神の言葉にも似たような、人の心に優しく語りかける音色だと私は思います。日頃身近にない 楽器だからこそ、インパクトのある出会いがあると言えるかもしれません。

これまで「オルガンの普及のために」・・この言葉をどの位聞いたことでしょう。 私も若さとやる気で、色々なことに拒まず挑戦してきました。 決して無駄ではない、貴重な経験でした。けれども最近痛感するのは、 名曲や親しみやすい音楽のみならず、真剣に取り組んだ演奏は、人の心に より訴えるものがあるということです。

いよいよ今月から、私がナヴィゲーター役を務めるオルガンコンサート シリーズが始まります。開館以来12年間定期的にオルガンコンサートを開催し、 過去7年は磯山雅先生の企画でファンを定着させている「いずみホール」。 だからこそ私も本音で迫ります。お客様の心に何かを投げかけたい。日本唯一の、 フランス・アルザスの美しいケーニヒ・オルガンが、音響の良いホールに 響きます。「聴きに来て良かった」というほんわかした余韻に浸りながら、 会場から帰っていただけるコンサートにしたいものです。世の中、暗いニュースが 多いですが、こんな時代だからこそ、心に栄養を。皆様のご来場を心より お待ちしています。



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