オルガニスト楽屋話

第56話 アシスタント ---2002.4.16.

オルガンコンサートに行かれた方は、黒っぽい、目立たない格好をした人が 奏者の横に立ち、譜めくりなどお手伝いしているのを見かけたことがあるかもしれません。 “アシスタント”(助手)と呼んでいますが、楽譜をめくったり、また演奏台の横に 配置されているストップやコンビネーション(音色を変える装置)を動かしたりします。 アシスタントは、オルガニストがあらかじめ決めた指示に従い、音楽のタイミングに 合わせて操作する訳です。(ごく稀な例ですが、現代曲の中には、アシスタントが演奏を 手伝うような作品もあります。)

助手のミスは演奏のミスにもつながる上に、時には演奏さえも左右してしまうような 重要な役目なので、譜面が読める人なら誰でも出来るという訳ではなく、できれば 楽器のこと、音楽のことを知っていて、機敏に動け、また信頼できる人でなくては なりません。

私の場合、学生時代はアシスタントに頼って演奏していました。けれども地方での 演奏会や、ちょっとした出演の機会などが度重なるうちに、毎回現地でアシスタントが 調達できるか心配したり、少しの時間のためにお願いするのも申し訳ない。ならば 一人で弾いてしまおう・・こういう状況にしばしばなり、アシスタントなしで 演奏するようになりました。もちろん楽器によって、また作品によっては 必要となることもありますが、今はほとんど一人で演奏しています。

ストップ操作も演奏の一部、ですからアシスタントにお任せというのではなく、 出来るだけ奏者自身が行うべき・・というのが私の考えです。またコンサートホールの オルガンには、コンビネーション、ゼクエンツといった演奏補助装置が付いているので 〜時には神業的な動きを足でしたりしますが〜、音楽的にも妥協せずストップを 動かすことが出来ます。また奏者の横にうろうろ人が立つよりは、視覚的にもスマート ではないでしょうか。

このためには、すでに譜読みの段階から、レジストレーション(音色選び)の ことを考え、どこでストップ、コンビネーションを動かすか、その動きも音楽の中に 感じながら勉強することがコツです。この勉強の方法は実はとても音楽的だし、 譜めくりなしで弾くために楽譜を縮小したりする工夫も必要ですが、この作業の お陰で音楽の流れを大きくつかむこともできます。

楽器によって、ストップやコンビネーションのある位置や動かし方も違います。 短いリハーサル時間の中で、ストップ操作まで慣れるのは大変ですが、不可能と 思われることも恐れず挑戦・・まあ、何でもやってみれば出来てしまうものですね。 毎回がその繰り返しです。

演奏の一部とも言えるような重大な操作を人に任せるとは、ほかの楽器の奏者には 信じられないことでしょう。アシスタントに頼らないで演奏するのも、オルガン演奏 のひとつのテクニックだと思います。



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