オルガニスト楽屋話

第103話  アルプスを望むスイスでの演奏会 ---2009.6.9.

チューリッヒ湖畔沿いの丘陵地帯にある街ヒンヴィル。5月30日のペンテコステ(聖霊降臨日)の日曜日、 「fiori musicali フィオリ・ムジカーリ(イタリア語で「音楽の花束」)」というフェスティバルで演奏してきました。 留学時代過ごしたフライブルクはスイス国境まで車で30分程。友人たちと、授業や練習の後、 アイスクリームを食べにパスポート持参で出かけたものでしたが、演奏旅行でスイスを訪れるのは今回が初めて、 久しぶりのスイスへの旅、少々緊張しての出発でした。

コペンハーゲンで乗り換えた飛行機が1時間半遅延し、ヒンヴィルに到着したのは夜9時過ぎ。 まずは睡眠をとり時差ボケ解消し、翌朝からリハーサルを始めました。 教会は高台にあり、街のどこからでもすぐにわかります。そびえ立つ教会の塔を目指し、教会へ。 迎えてくれたのはメ〜〜、かわいい羊たちでした。 爽やかな空気、澄み切った青空、チューリッヒ湖の向こう側のうっすら残雪の残るアルプスが望めます。 良いお天気、何て美味しい空気、思わず大きく深呼吸。響きの良い教会にあるのはスイスのオルガンビルダー、 マティスの3段鍵盤とペダルのネオバロックの楽器。ヒンヴィルからの景色や空気にも似て透明感のある透き通った 音色のオルガン、表情豊かで思いのままに私の音楽が表現できるこの楽器に魅了されながら、オルガンと対話していく 時間が続きました。2日間たっぷり時間をいただいたので、ゆっくり音色づくりもでき、楽器にあった演奏を探しながら、 音楽へのインスピレーションをさらに膨らませ、演奏会の日を迎えました。

演奏会は夜8時から。この日も快晴で外はまだ明るいです。オルガンは2階にあるのですが、この2階に広いバルコニー席 があるので、オルガンコンサートの時は、多くの人が2階の演奏する姿が見える位置に座ることになっているようです。 ぞくぞくと街の人々が集まってくださり、演奏会は始まりました。 ヒンヴィルの美しい音色を生かし、一音一音大切に演奏、また私自身も美しい響きと音色を楽しみながら演奏するこ とができました。演奏会が終わった頃、ようやく少しずつ暗くなり、主催者でオルガニストのニコラ・チッタディンさん、 その奥様であり私のお弟子さんである 叔子さん、教会の関係の方々とイタリアンレストランで打ち上げ会を。 スイスのワイン(生産量が少ないので輸出を制限しているそうです)も美味しく、コンサート後のヒンヴィルの夜は 静かにゆっくりと過ぎて行きました。

コンサートの翌日はルチェルンを訪ね、ドイツ時代の旧友と再会。その後はサンモリッツを起点にし、 アルプスを見ながらエンガディン地方で数日過ごしてきました。アルプスには氷河、万年雪の残る渓谷の谷間には のどかな牧草地、そして湖もあり、大自然が広がる美しい地方です。世界遺産や文化財になっている村も点在しています。 丁度新緑の季節、牧草地はピンク、白、黄色の花々、一面のお花畑でした。山々に残る残雪は見えるものの、気候はすでに初夏。 風の音や花の香りを感じながら、小さな村を訪ねたり、山歩きしたり、しばし都会から離れ、自然の中でコンサートの疲れをとりました。

帰りはチューリッヒから電車でフランクフルトへ。思い出のフライブルクの街も通過、車窓からミュンスター(大聖堂)の塔や オルガンを弾いた教会を見ながら、お世話になったサットマリー先生ご夫妻や共に学んだ友人たちに思いを寄せ、ここが私の ヨーロッパでの「出発地点」!!と思いつつ、帰途につきました。

(スイスの写真は こちらでご覧いただけます。)




第103話・続き  スイスでの演奏会・続編 ---2009.6.22.

スイスから無事には帰国したのですが、ハプニングもありました。明日は帰国という最後の日、 チューリッヒの街を歩いていた時のことです。土曜日の午後、街一番の目抜き通りであるバンホッフ通りは歩行者天国で、 銀座通りのような賑わい。何かいいショットがあれば街の景色でも撮ろうかと、カメラ片手に歩いていました。すると後ろから若い男性が寄ってきて、 お札を数枚チラチラと見せるのです。それは日本円で、1万円札と千円札数枚。こんなことで変なことに巻き込まれては大変と、 「私のではありません」と断ると、男性は立ち去っていきました。何だろう〜と思いつつ、念のためバックの中を確認してみると、 確かに入れてあったはずの日本円が減っている!!2万3000円あったはずが、1万円札のみ。とすると、あれは私の〜?! 立ち去った男性を追っかけ、「やはり私が落としていました、ありがとう。」と丁寧にお礼を言い、返してもらうと それは雨上がりの歩道に落ち濡れたと思われる、ビショビショの1万3000円。 スイスフランはお財布に入れ、スイスで使わない日本円とユーロ札だけ、直にバックに入れていたのです。 でも落としたはずはない。迂闊にもカメラを出した後、バックの口は開けたままでした。もしかしたらスリ? 抜いたけど訳のわからないお札で捨てたものを、その男性が拾ってくれたのか、それともあの人が泥棒?!まさか! その後、その男性を見ていると、路上でTシャツを売る男でした。一体、何だったのだろう、、、どうやって あのお札だけが抜かれたのだろう、、いまだにわからないのですが、 とにかく不可思議な出来事に遭遇しました。

スイスのお料理、チーズ、チョコレート、とても美味しく食べ過ぎたのか、体はすっかり重くなった感じ。 体もですが、楽譜、お土産にいただいたワイン2本、最後の日にはチーズやチョコレート、 それからお料理に使いたいといろんな種類のハーブや香辛料、これがガラスの容器入りで、 お土産に&私のために買い込んだスイスの味で、スーツケースは私の力では持ち上がらないほどの重さに。 チューリッヒからフランクフルト空港までの列車での移動、そして乗り換え、ヨーロッパの列車はいまだに 乗降口が階段で、この数段の階段、荷物の重さで私が転がりそうになるほどでした〜。

成田に着き、駐車しておいた車を受け取り、東関道に乗りました。料金所ではETCのラインへ。 ブレーキは踏んでいたので突っ込まずにすみましたが、ゲートが開かない。どういうこと〜? 後ろにはどんどん車が!しばらくすると、スピーカーの向こうから「ETCカードが有効期限切れですよ〜」。 行きは問題なく通ってきたのに。しかしカードを抜いて確認すると、5月末まで。行きは5月、今日は6月、、 確かに期限切れ。「現金で払ってください〜」とまた声が。あわててお財布を出すと中身はスイスフラン。 後ろからはクラクションが、、、大慌てでバックから日本円を探し出し支払うと、ようやくゲートが開いた。

帰国しまもなく、ユーザー車検へ。実はこれにもスイスがらみの失敗談があるのです。スイスへ出かける前に、 車検を済ませておこう〜と。何かと用事が立て込み忙しい出発前にこの日ならばあいている、、と 鮫洲へ。重量税を払い、自賠責保険に入り、車検場の前にある早川自動車でいつものように点検整備をお願いに。 すると、まだ2日前だと言うのです。なんとフライング〜!1ヶ月前から車検は受けられるのですが、その2日前だったのです。 何という慌て者。そういうわけで、帰国しまもなく愛車のBMくんのユーザー車検に再度鮫洲に足を運ぶことに。試験場はすいていて、ドキドキしながら 列に並びましたが、すぐに順番が。周りはツナギを着た自動車整備工場の方と思われるような男性、あるいは車マニアっぽい人ばかり。 女性で不慣れそうな私を見つけ、係りのおじさんがすっ飛んできました。超親切にしてくださり、ものの2分で検査は終了、無事合格。 身体検査をパスしたような晴れ晴れした気分に。

そして昨日、生まれて初の「講演」も終了。教会の婦人会で『私の音楽人生を支えるもの』と題し、1時間弱のお話をしました。 これも本当はスイスの旅行中に列車の中で原稿を書く予定にしていたのですが、あまりに景色が美しく見とれてしまい、 結局書き始めたのは帰りの機内、そして前日までかかりました。準備は大変だったのですが、貴重な 経験をさせていただきました。重くなった体を元にと水泳、トレーニングも再開、 日本でのペースに戻り、また今日からコンサート活動に向け準備再スタートです。


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