オルガニスト楽屋話

第198話 本郷中央教会お披露目演奏会 ---2016.5.23.

新緑の美しい5月を迎えています。キングズウェルのランチタイム・オルガンコンサートは第35回を迎え、 企画のお手伝いをさせていただいてから3年と2ヶ月、少しずつ周知され、今回の来場者数は最高に。ガーデンの薔薇も満開、ニコニコ笑顔です。

そして昨日5月22日、本郷中央教会に設置されたオルガンのお披露目演奏会で演奏させていただきました。 教会は本郷の地に1890年に創設、当時イギリスから宣教師として来日したエドワード・ガントレット氏が 聖歌隊長とオルガニストを務めていました。ガントレット氏は日本で最初にオルガン普及のために貢献した人で (奥様は山田耕筰のお姉様)、 大型リードオルガンを改造したペダル付きパイプオルガンを自ら設置し弾いていたそうです。 これは日本で最も古いオルガンのひとつとされていますが、1923年、関東大震災により会堂とともにオルガンも焼失。 今回93年を経て、再びこの地にオルガンが設置されました。

オルガンの選定にあたったのは、世界的に活躍するオルガンビルダーの横田宗隆氏。 「歴史のある建物に新しい楽器は違和感がある」、、と選ばれたのが、 1894年にイギリスのコナッハーによって製作された楽器。ウェールズのダニー・キャステル教会で 100年以上使用されていたオルガンで、2010年に教会が閉鎖になりオルガンは解体され保管されていました。

日本では馴染みの薄いイギリスのオルガン、調べてみますと・・
ピーター・コナッハーは1823年スコットランド生まれ。当時のスコットランドにはほとんどオルガンはなく、 彼はライプチヒへ行き、オルガン製作と整音の修行を積みました。 その後、イギリスに戻り、当時イギリスで大きなオルガンを製作していたウィルスHenry Willis、や、 ウォーカーWalkerといったオルガンビルダーの元で働き始めました。カヴァイエ=コルの影響など受け、 ロンドンのセントポール寺院などに(1872年)大きなシンフォニックなオルガンを建造していた時代です。

カヴァイエ=コルとは、19世紀フランスで、音量の変化がつけられ、ダイナミックレンジの広い、 オーケストラのようなオルガンを製作したオルガン製作家です。

コナッハーは大ホールにもオルガンを製作、80名の職人を抱え、約30の大きなオルガンを毎年製作し、 1873年にはイングランドで最も大きく、優れた会社と言われるまでになったそうです。

本郷中央教会に設置されたオルガン(2段鍵盤とペダル、10ストップ)はスウェーデンでオルガンビルダーのコリアー氏 によりオリジナルに忠実に修復され、日本に輸送され、スウェーデン技師2名により教会礼拝堂で組立てられました。 3月に組立完了後、何度か試奏をさせていただきました。100年以上も弾かれていた楽器ゆえに、 椅子に座るとお尻の部分にへこみがあったり、愛されて使われていた人の息吹、温もりが感じられます。

弾かせていただく度に、不思議なことに、毎回音が変化していくのです。鳴るように、歌うようになっていく。。。 しばらく解体され眠りについていた楽器に息が吹き込まれ、眠りから覚めていったのですね、そんな瞬間にも立ち会え幸せでした。

生まれた地方、土壌によって音色が違いますが、イギリスのオルガンは北ドイツのオルガンのように輝かしいものではなく、 地味であり、ヨーロッパ大陸のプレノとは違う響きを持っています。
本郷中央教会のオルガンは、暖かみがあり柔らかく、優しい響きのするオルガンです。歴史的な会堂によく合い、讃美歌の伴奏をするのに最適な音色、 音量と感じました。イギリスのロマン派のオルガン特徴である美しい8フィートが沢山あり、 さらに4フィート、2フィートのストップは明瞭な明るさを持ち、しっかりしたプリンチパル・コーラスも形成しています。

横田氏の整音を終え、低音もより充実し、お披露目の日を迎えることに。 バッハ、オーソドックスなロマン派のオルガン作品に加え、このオルガンの特徴をお聴かせ出来ますようルメア、 ウィットロック、エルガー、ホリンズなどの珍しくまた滅多に演奏されないイギリスの作品をプログラムに。 オルガンに合った作品を演奏すると、作品の魅力がどんどんと引き出されて、またオルガンも美しく歌います。
このオルガンには手動で動かすふいごも付いていて、途中で電気を切り電動のモーターを止めて、 教会員の方にお手伝いいただき、手動のふいごを使って、イギリスの作品を1曲演奏しました。 補助椅子も出し準備してくださいましたが、礼拝堂は座りきれない程の人で満席になり、 大勢の方に見守られながらのお披露目、オルガン設置の喜びを共にすることが出来ました。

イギリスから時代と国境を超え移設されたコナッハー・オルガン。日本のオルガンの中でイギリスロマン派のオルガンは数少なく、 貴重なオルガンの誕生です。
設置のためにご尽力いただきました多くの方々に感謝致します。これから神様を讚美する楽器として、 また奏でられる音楽で人々に喜びや勇気、癒しを与えていく楽器として愛され、この地で歴史を重ねていくことでしょう。

明治の時代の教会、オルガン、またオルガンの普及に尽力を尽くされた先人達の姿を知る機会にもなった 本郷中央教会でのお披露目演奏会でした。


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