オルガニスト楽屋話

第59話 スペイン旅行 ---2002.9.11.

今年の夏は長年の念願がかない、スペインへの旅が実現しました。というのも 留学していた頃は、時間も、お金もなく、帰国後は時間がとれるのがいつも 夏休みで、暑いのではないかと後回しにされがちだったからです。バルセロナ、 それからピレネー山脈のあたりは訪れたことがありますが、本格的なスペイン 旅行は今回が初めてでした。

「無事に帰ってきました」という言葉がいつになく強調されるのも、旅行直前に スペインの治安の悪さがテレビで放映されたからでしょうか。以前、ローマで スクーターに引きずられ、バッグを盗まれた経験がある私は、こうした話が 他人事でないことはよくわかっていて、今回は少し緊張した旅であったことは 事実です。日本が安全なので、私たちは全く無防備であることが良くわかります。 バッグを持つと危ないと言われ、手ぶら歩きを実行。でもしっかりカメラは ポケットに入れ、写真を撮ってきました( 写真紀行をご覧下さい)。

歴史の重みを感じる建築、イスラムの文化の影響を受けた美術、街そのものが 芸術の宝庫。ロマネスクやローマ時代のものが沢山残っていて、またガウディや ピカソといった天才達も輩出した国です。見所、見たいものが一杯で、日が長い ことはありがたく、それはそれは良く歩きました。

これまで写真や絵でしか知らなかったスペインのオルガンを、実際に見ることが できたことも感激でした。スペインのオルガンの特徴は、水平に突き出した リード管(水平トランペット)。本当に、沢山のパイプが、水平に突き出し並んでいました。 ケースの装飾は豪華可憐!大きな楽器が、聖職者席を囲んで2台設置されているの ですから、迫力です(トレドはさらに南側にもう一台)。またオルガンの後ろ側も美しい こと。一体これらの2台の楽器をどうのように使ったのでしょう。セヴィリヤとトレドで 日曜日のミサにも出席しましたが、オルガンは使わず、コンサートの予定なども目に することはありませんでした。スペインのオルガンの黄金時代は16世紀から18世紀まで。 その後はあまり発展せず、維持されることも容易でない時代を通りすぎてきた楽器です。 今回こうした楽器を見ることが出来たので、オルガンに思いを寄せ、スペイン古典の オルガン曲にもまた触れてみたいと思いました。

毎日太陽はサンサンと照り、日中に温度計を見ると40度を超えてたりで驚くの ですが、日本の夏とは違い、乾燥していて、ほとんど汗をかくこともありません。 日陰、また朝晩は涼しく、心地よい風が吹き爽やかです。こんなお天気に ピッタリなのが、陽気なスペイン人。ホラ(こんにちは)!と気さくに声を交わします。 真面目顔のドイツ人は対照的ですね。タクシーやバスに乗ると、運転手さんは 歌いはじめたり。広場で、またバルやテラスで、とにかくワイワイと賑やかです。

魚介類、野菜、果物が豊富で、素材を生かし、オリーブオイルでさっぱりと 仕上げられたお料理は大変美味しく、メニューも豊富で、旅をさらに楽しませて くれました。はじめ慣れなかったのは、食事の時間。ほかのヨーロッパの国々とも 少し違います。昼食が2時から5時ごろ。3時、4時になっても、まだレストランには 昼食をとる人が入ってきます。ゆっくりと2時間、いや3時間くらいかけての食事。 お昼休みは2時から5時で、この間商店は閉まります。夕食は早くて8時、9時から というレストランも多かったです。日が暮れるのは10時半頃(ドイツよりもさらに 遅いです)、この時間から街にはまた一段と人が繰り出してきて、賑やかになります。 朝は暗く、人の動きも遅い、こんなペースです。16日間旅するうちに、こうしたペース にも慣れ、ゆっくり食事を楽しみ、夜はテラスでサングリアを飲み、すっかり私も スペインペースを楽しむようになりました。

日頃、時間に追われあくせくしがちな東京での生活から離れ、歴史の残った街で、 ゆっくりとした時間の流れに身を任せるのも良いものです。明るい太陽の下、 スペインを充分に満喫できた旅でした。



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